Blog 04 2月 2020

【寄稿記事】卓見異見/不祥事乗り切る企業行動

Kekst CNCアジア地域代表/日本最高責任者 ヨッヘン・レゲヴィー(2020年2月3日付け 日刊工業新聞)

■ダメージ軽減、訓練で備え
2019年もかんぽ生命、レオパレス21、関西電力、日産自動車、LIXIL、リクルート、セブン&アイなど日本企業の不祥事が続いた。原因はガバナンスの問題、個人情報の不適切な利用、不正の隠蔽(いんぺい)とさまざまだ。このような不祥事は米国や欧州、韓国や中国でも散見されるが、その要因には日本特有のものもある。それらにより、日本企業が不祥事に関与してしまうリスクが近年増加しており、風評被害および事業への損害を被る可能性も高まっている。

【日本特有のリスク要因】
第1の要因として日本の終身雇用制度の急速な崩壊に伴い、会社への忠誠心が薄い社員が増えているため、社員による会社の不正行為の告発を防ぐ抑止力が失われた。内部告発を発端に発覚する不祥事の増加には、このような背景がある。

第2は会員制交流サイト(SNS)の台頭をはじめとするメディア環境の変化だ。個人がSNSで世界に発信できるようになり、SNSの投稿から不祥事が明るみに出たり、炎上したりするケースが少なくない。

第3に13年以降、日本政府の本格的なコーポレートガバナンス(企業統治)改革により、国内外の「物言う株主」が日本市場に注目するようになった。この動きにより、19年のLIXILのケースでは企業の不正行為に標的を合わせた責任追及につながった。16年には物言う株主の米ヘッジファンド、サード・ポイントが世襲回避を求め、長年その座にいたセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長を辞任に追い込んだ。日本企業は今後さらに厳密に自社の企業統治と慣習を精査する必要がある。

日本特有の要因に加え、サイバー攻撃やデータの不適切な取り扱いにより、世界中のほとんどの企業でデータ漏えいや、顧客情報損失のリスクが増大している。これは企業の信用問題や事業への損害拡大に直結する。19年には、18年5月に欧州で導入された一般データ保護規則(GDPR)に違反したブリティッシュ航空とマリオット・ホテルにそれぞれ250億円と135億円の制裁金が科せられた。

【国を越えて信用失墜】
企業はクライシス(危機)を完全には防げないが、危機的状況でいかに迅速かつ効率的に対応できるかが大きな違いを生む。不祥事や危機の最終的な損害が軽減/拡大するかは、いざという時の主要ステークホルダーとのコミュニケーション次第。そのため、不祥事や危機的状況に向けてトレーニングを実施し、備えておくことが企業にとって必要不可欠だ。

日本企業のグローバル化が急速に進む中で効果的なクライシス・コミュニケーションの重要性は一層高まっている。コミュニケーションを誤れば欧州、米国またはアジアで始まった危機が、数日のうちに日本の多国籍企業の世界での評価が傷つく可能性もある。

数十年にわたり、当社のようなコミュニケーション・コンサルティング会社は航空、製薬、化学業界の企業に航空機事故、医薬品問題、工場爆発などの場合のトレーニングを提供してきた。しかし現在、このような訓練はあらゆる業界の企業に必須となっている。

【品質管理、営業も対策】
当社が提供する「Kekst CNC Situation Room」は双方向的なデジタルトレーニングツールとして、広報だけではなく、法務、品質管理、営業など幅広い部門のチームを訓練できる。企業ごとに考えられる危機のシナリオに沿って、既存の危機対応マニュアルの実用性を検証できる。また、進行中の危機がステークホルダーにどう映るかは、チームの対応次第なのだとシミュレーションで学べる。世界中の化学薬品会社や食品会社、自動車会社、銀行、さらにビル&メリンダ・ゲイツ財団にも採用されている。

コミュニケーション課題への訓練および備えは、一部の限られた企業の「必須ではないがあれば良いもの」ではない。グローバルに事業を行う全ての日本企業にとって、不可欠なものなのである。(次回は慶応義塾大学教授/デザイン塾主宰の松岡由幸氏です)

 

【略歴】96年独ケルン大経済学博士課程修了。ドイツ日本研究所副所長、三菱自動車コミュニケーション本部長を経て、04年からKekst CNCの日本最高責任者とアジア地域代表を兼務。ドイツ出身、54歳.

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