Blog 29 11月 2019

【寄稿記事】卓見異見/悩める東京モーターショー

Kekst CNCのヨッヘン・レゲヴィー (2019年10月21日付け 日刊工業新聞)

■Kekst CNC アジア地域代表/日本最高責任者ヨッヘン・レゲヴィー 日独統合・交互開催で新機軸

かつてアジア最大のモーターショーだった東京モーターショー(TMS)が24日に開幕する。今年で46回目を迎えるが、栄光の日々は過去のものだ。主要海外メーカーの出展はここ数年減り続けている。今年は独BMWとフォルクスワーゲン(VW)が出展を見送った。本質的なコンセプトを変えない限り、中止に追い込まれるか、良くても国内モーターショーになる危険性が高い。

【「モビリティー」に活路】

実は国際モーターショーはどこも同じ課題を抱える。米デトロイトモーターショーは出展社と訪問者の減少に悩まされており、開催時期を1月から暖かい6月に変更する決断を下した。これで1月の全米家電見本市「CES」との競合を回避できるかもしれないが、復活への道のりは厳しい。仏パリモーターショーも同様だ。

中でも9月に開催された独フランクフルトモーターショー(IAA)が、TMSへの本質的な警鐘を鳴らしている。かつて世界最大かつ最重要だったIAAですら、2021年からは形式を変えて開催される検討が始まっている。19年のIAA訪問者数は17年比30%減の56万人にとどまった。トヨタ自動車、欧米フィアット・クライスラー、スウェーデン・ボルボ、日産自動車、三菱自動車が出展を見送り、出展社は同20%減、展示面積は同16%減の16万8000平方メートルだった。 

ドイツの自動車メーカー各社は、IAAの現状に大きな不満を抱いている。彼らは車を展示するだけの形式から、より対話と議論に焦点を当てたモビリティーイベントへ根本的にシフトするようIAAに要求している。

IAA主催者のドイツ自動車工業会(VDA)は、20年1月までに21年のIAA開催内容を決める予定で、主に次の3点を議論している。一つ目は自動車に特化するのをやめ、幅広い産業とプレーヤーを巻き込んだモビリティーイベントにする。その結果、IAAという名前が消える可能性もある。

【グローバルな対話の場】

二つ目は展示会形式から、業界関係者だけではなく、規制当局や自動車産業反対派との対話や議論を重視する形式への移行。三つ目はフランクフルト開催にこだわらず、五輪のように開催都市を選定し、2年ごとに開催地を変える形式にするというものだ。この形式の最初の開催地にはベルリンが最有力候補とうわさされている。

IAAが始まった1897年から時代は変わり、私たちは現在、デジタル、モビリティー、社会情勢による根本的変化を経験している。これはTMSにとって何を意味するのだろう。日本自動車工業会は懸命に開催形式を改良しようとしているが、その程度の変更では足りないし、手を打つのが遅すぎるように見受けられる。

【脅威増す米中勢に対抗】

私は今年2月にTMSとIAAを統合して対話型のグローバルモビリティーイベントに変え、フランクフルトと東京で交互に開催するという提言をした。長年にわたり自動車市場を独占してきた日本とドイツのメーカーにとって、米国と中国の自動車・モビリティー新興企業は大きな脅威となっている。私の提案であれば、激しさを増す米中との競争に、日独が団結して対抗できるかもしれない。

自工会が9月26日に開いた記者会見で豊田章男会長は、TMSをCESのように生活全体の未来を示す場にモデルチェンジしたいと述べた。方向性は正しい。ただ、それだけでは不十分だ。

次回からIAAが変わることで、日独の協力体制強化につながるかもしれない。IAAが2年ごとに国内で開催地を変えながら実施するモビリティーイベントへ移行した場合、IAAが開催されない年に東京、大阪、さらには名古屋で姉妹イベントを実施できる。

TMSは自動車を展示する場から対話を促進するプラットフォームへと変わる必要がある。そして自動車からモビリティー全体へ、さらに日本単体開催からグローバルでの連携へと迅速に移り、あらためてその存在意義を示すタイミングを迎えている。(次回は慶応義塾大学教授/デザイン塾主宰の松岡由幸氏です)

【略歴】96年独ケルン大経済学博士課程修了。ドイツ日本研究所副所長、三菱自動車コミュニケーション本部長を経て、04年から戦略的PRコンサルティング会社のKekst CNCの日本最高責任者とアジア地域代表を兼務。ドイツ出身、54歳。

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